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地獄

작가: エチカ
last update 게시일: 2026-11-02 14:33:30

 広い応接室には秋津グループの会長である真蔵氏と、それに連なる親族一同が集まっている。

「これを見て下さい」

 唯人がそう言ってプロジェクターで壁一面に映し出したのは、妹の希美が入院していた時の映像だ。

 自分より二つ年下の唯人の妹、希美は麗と同じく千日病を患っていた。

 一年前、希美は病に耐え切れずこの世を去った。

 その頃、麗はまだ健康で、希美が倒れたと知ると彼女は心配でたまらず、頻繁に病院へ足を運んだ。

 話し相手になり、小さなお菓子を持って行った。

 彼女とは年も近く、ずっと仲が良かったのだ。

 なのに、映像には麗が、見舞いの品を無理やり口に突っ込んだり、頬を叩いたり、挙句の果てには花瓶の水をかけるなど、まるで自分が希美を苛めている。

 SNSに流された動画には、罵詈雑言と言っていいコメントが多数つけられ、それを笑いながら読みあげる麗の姿があった。

「な、に……これ……」

「ふんっ、白々しい事を……」

 そう言った唯人に、写真をぶちまけられる。

 それにも身に覚えのない希美をいたぶる自分の姿が映っており、麗はただただ首を振って訴えた。

「ちがっ……私じゃない! こんなことしてないっ!」

「まだ言うかっ! ここまで証拠があるって言うのにっ!」

「ちがうっ! やってないっ……こんなっ……」

 床にばら撒かれた写真を拾い上げ、顔を上げた先には無数の軽蔑の目が向けられている。

 誰が? 何で? 何の為に――?

 息を吐くことも吸うことも苦しく、浅い呼吸のせいで言葉が詰まり始める。

 麗の中では途方もない疑問が駆け巡っていた。

 だが、誰一人その映像と写真を疑う者はいない。

 流された映像の最後には、ぐったりと項垂れて動かなくなる希美が映っている。

「この日、希美は息を引き取りました。この女が希美を殺したのです」

「何と酷い……」

「人のする事か」

「……卑しい女だ」

「醜い。罰が当たったんだ」

 親族たちが口々に麗を罵る。

 麗は悔しさと一緒に手の内のガラス片を握り締め、床に突っ伏したまま唇を噛み締めた。

 でも、あの日の事は今でも鮮明に覚えている。

 昼間会いに行った時、希美はいつになく体調が良さそうで、いろんな話をした。

 一時帰宅できるかもしれないと、喜んでいたのだ。

 なのにその晩、彼女は逝ってしまった。

 医師は「急性心不全」と言い、麗はその現実を受け止めきれず涙した。

 麗は唇を噛み締め、唯人に向き直って半ば叫ぶように聞いた。

「こんな映像誰がっ! どこからっ! 貴方が騙されているのよっ!」

「俺を疑っているのか? 犯罪者の分際でっ!」

「お願い、唯人、ちゃんと調べて! 私はやってない! こんな事をする理由がないわっ!」

 麗が息を上げてそう声を上げると、今度は義母の祥子が口を開いた。

「調べろですって? そんな事をすれば秋津家の良い恥さらし。嫁の分際で分を弁えなさい!」

 淡々とそう述べた祥子は、勝ち誇ったような顔をしている。

 何かがおかしい――。

 どうして唯人は信じてくれないのか。

 どうしてこの人達は、さも当然のごとくこの映像や現象を受け入れているの……?

「さっさと警察に突き出せ。これは殺人だろう?」

 そう言ったのは唯人の祖父であり、会長でもある真蔵氏だった。

 その言葉に麗はただ震えて息を飲む。

 政界にも顔が広く、一代で秋津家を医療グループへと成長させた豪傑。

 彼が黒と言えば黒になる。

 秋津家において彼の一言は、何よりも重い。

 老齢でありながらも成り上がって来たその存在感は一線を画している。

「いいえ、会長。この件、息子に任せて頂きたいのです」

 横から祥子が口を挟む。

 その言葉に真蔵氏は怪訝な顔をして見せた。

「唯人、お前にこの一件を処理できるのか? これ以上、秋津家に泥を塗る事は許さん」

「出来るわよね? 唯人」

 祥子にそう念を押されて、唯人は緊張した面持ちで答える。

「も、勿論です。会長……」

「お前の父親は凡人だが、お前はそれ以下だ。失敗したら出て行って貰うぞ」

 そう言われて唯人は言葉なくただ小さく頭を下げた。

 偉大ではあるが、厳しく威圧的な祖父を唯人は嫌っていた。

 だからこそ自分は「血の通った経営者になるんだ」といつも繰り返していたのに――。

 麗はこの血も涙もない唯人のやり方に、もう自分の愛した夫はいないのだと思い知る。

「お願い、唯人。信じてっ……」

 それでも麗は唯人に追い縋った。

 でも彼はそれを力の限り振り払い、一瞥し、吐き捨てる。

「妹の為に、地獄へ行ってくれ」

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